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執筆者の写真四国ルート88

9月29日 12日目 約34㎞

6時半にホテルを出る。夕べ遍路道からかなり離れた所に泊まったせいか、すっかり道がわからなくなってしまった。おばちゃん2人、男子中学生1人に道を聞いてたどり着いた29番国分寺は、まだ人が少なく落ち着いた雰囲気。特に参道は両側に老樹が立ち並び、朝の静かな感じがとても気持ち良かった。

くねくねとした田んぼの間を通るあぜ道から住宅地を通り県道に出る。下りになったらまっすぐに延びる道路が見えた。すると横をスーっと自転車に乗ったお姉さんが追い越して行った。後ろ姿を見ていると、髪をなびかせる後ろ姿がどんどん小さくなっていく。普段は車の速さが普通だから自転車が速いとは思わないけど、歩きながらだと自転車の気持ちいい速さを実感できる。

30番善楽寺の山門からは、土佐神社へ続く広くて長い参道がのびていて、小さい子供を連れて散歩をしている人達がいた。こんな景色を見るとホッとする。せっかくなので土佐神社にも参拝した。善楽寺は参道の突き当り、右手にある。ここで昨日宿が一緒だった夫婦に会った。5時半から歩いていると聞いた。二人で歩くのは難しいと思う。歩くペースも違えば疲労の仕方、休憩のタイミングも違う。絆は深まるだろうけど1200kmは長い。ふたりとも笑顔があったので、他人事ながら安心した。けんかでもしたら立て直すのも大変だろうし。

竹林寺への県道は、周りが田んぼで遮るものがなく風が強い。うどん屋でもないかなと歩いていると、うまい具合にセルフのうどん屋があった。目立つらしく店の中のほとんどの人と目が合った。こういう狭い空間で、人が多いと視線が気になる。1人だけ違う格好をしているのが恥ずかしいというか。食べることに集中しだすといいのだけど、その前後が落ち着かない。なんか気が弱いなぁと思ってしまう。テーブルの下で靴下を脱ぎぶっかけうどんといなり寿司を食べ、腹が落ち着いたところで店を出る。相変わらず風が強い。

街中を行くと線路があって、その向こうに遍路標識がある。線路の手前から身を乗り出して見ていると、右の方からクラクションを鳴らされる。えっ?と思って見てみると路面電車がすぐそこまで来ていた。慌てて身を引っ込める。そういえばこの線路には柵がない。危なかったー、驚いたー。

土佐鉄道御免線の文殊通駅横の踏切を渡り、国道32号線を越える陸橋を下りた所でおばちゃんに呼び止められ、聞いてもいないのに道を教えられた。目の前には1本道。その通り行けた。

31番竹林寺のある五台山への登りはかなりの傾斜がある。畑仕事をしているおばさんとすれ違った。こんな坂を毎日のように上り下りするなんて、足腰強いんだろうなと思った。セメントで固められた階段は一段ずつ上るのには狭く、2段ずつには広い。一段ずつ上ったけど歩幅が合わず、何度もつんのめりそうになった。ここもちょっとしたへんろころがし。

納経所の横には休憩所があってポットにお茶が入れてあった。熱くておいしく、3杯いただいた。ここでもさっきの夫婦に会った。

五台山を下り、橋を渡って下田川に沿って歩く。

32番禅師峰寺に着くとちょうど団体2組と一緒になった。ガヤガヤと世間話をしながらやって来て、お経をあげると世間話をしながら境内を出て行く。静かになるまでベンチで待っていた。

禅師峰寺も高台にある。境内からの眺めは最高。遠くに足摺岬が霞んで見える。ほんとにあんな遠くまで歩いて行けるのかと思ってしまう。

ここで今夜の宿をとる。浦戸湾を往復する、渡し船乗り場の近くの新橋旅館。納経所に行くとき、さっき夫婦がやって来たので、思わず「景色がすっごいきれいでしたよ。」と言いながら近づいて、少し話をして別れた。

納経所で話を聞くと、渡し船はモーターが故障していて不通だそうだ。渡し舟なんて滅多に乗らないから、実は楽しみにしていた。残念。せっかくだから桂浜に行くように勧められ、翌日は一瞬考えたけど先に進みたくなって寄らなかった。観光をすると遍路の意味が薄れそうだし。

禅師峰寺を下りて少し行くと県道になる。横風が強くて髪もぐぐちゃぐちゃ。汗ばんだ顔に髪が引っ付いてとにかく不快。一日の疲れも出てきて足取りが重い。途中、軽自動車に乗る30代くらいの男性が、すれ違い様にクラクションを鳴らして手を挙げて行った。知り合い?と思ったけどそんな訳ないし。あの人も歩いたことがあって、同士的な感じのあいさつだったのかも。嬉しいけど、とっさのことでリアクションできない。せめて手を挙げるくらいしたかった。宿まで遠い。

町中に入り、パン屋で道を聞いて少し行くと到着した。旅館の周りには店がなかったので、さっきのパン屋まで戻って飲み物を買った。

風呂はシャワー無し。蛇口は水と湯が別々で不便だった。でもこんなことにも歩いているせいか段々と慣れてくる。不便だけどこれはこれでいい。

食事の時女将さんに、若いことと歩きということでとても感心された。鳥取県の人は珍しいらしく、宿帳を見せてもらったけど見つからなかった。さすが人口が1番少ない県。

一緒になった小野原さんは区切りで回っていて、今回は岩本寺まで行かれるそうだ。3人でゆっくり話をした。小野原さんも地元にいるときは写経をしてるそうで、なんとその腕は師範。10年でなれたそうだけど、すごい。

こうやって民宿に泊まると、色んな人と一緒になる。大体が同じ遍路同士ってこともあってすぐうち解けられる。この遍路旅のいいところは、同じ道を歩いて同じ苦労をしているから、相手を尊重して年齢に関係なく話が出来ること。お互い気遣い、励まし合えるし嘘がない。たくさんの人に出会い、話をした。でも同じ数の別れがある。別れは寂しいけど、全てを背負っては歩けない。振り返るとこの旅は出会いの旅でもあった。ほんとに多くの縁があったと思う。




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